「挙国一致」内閣期における内務省土木系技術官僚

政党内閣が崩壊し挙国一致内閣が成立していった1930年代の政治状況の中で、内務省の土木系技術官僚たちはどのようにして自らの利益を実現しようとしていたのでしょうか?そこには、土木事業における技術的合理性を理想としつつも、利益実現のために政治と関…

日露戦争と日本在外公館の"外国新聞操縦"

1904年、日露戦争開戦。極東の小国が大国ロシアに挑んだ戦争の遂行にあたって必要とされたのは軍事力だけではありませんでした。主として戦況に関する報道に日本の意思を反映し、また黄禍論の拡大を防止することを目的として、各国に設置された在外公館を通…

クローズアップ現代「知られざる“同胞監視” 〜GHQ・日本人検閲官たちの告白 〜」

表題のドキュメンタリーを見ました。昨今のNSAによる盗聴のニュースが背景にあるとはいえ、こういう歴史の1ページに光が当たるのは歴史学に携わる者としてはまず嬉しいところです。自分自身は検閲史が専門ではないのですが、以前縁あって『「戦艦大和の最期…

故井伊直弼を考課する――直弼五十回忌までの歴史批評

近江絹糸労働争議の解釈をめぐって市と編纂委員会が対立、新たに編纂した市史の現代版が出ない!?ということで話題になっている彦根市ですが、気になっていろいろ調べているうちにこんな論文にたどり着きました。維新後長く逆賊の汚名を着せられていた彦根…

プロメテウスの罠――明かされなかった福島原発事故の真実

ギリシャ神話によれば、人類に火を与えたのはプロメテウスだった。火を得たことで、人類は文明を発達させる事ができた。化石燃料の火は生産力を伸ばし、やがて人類は原子の火を獲得する。それは「夢のエネルギー」とも形容された。 しかし、落とし穴があった…

昭和45年11月25日

「英雄のいない国は不幸だ!」 「違うぞ、英雄を必要とする国が不幸なんだ。」 ブレヒト『ガリレイの生涯』より 昭和45年11月25日、陸上自衛隊東部方面総監部に押し入った三島由紀夫は総監を人質にとった後、駐屯地の自衛官に向けて檄文を配し演説を行います…

綿業が紡ぐ世界史――日本郵船のボンベイ航路

日本郵船が開設した日本で最初の国際定期遠洋航路、それは神戸とボンベイを結ぶものでした。1893年に開設されたこの汽船航路は、当時のグローバルな経済、金融、政治状況と密接に関わっていたのです。 秋田茂「綿業が紡ぐ世界史――日本郵船のボンベイ航路」『…

福地源一郎研究序説――東京日日新聞の社説より

とある講義で必要があって読みました。明治期の有力紙の一つ、東京日日新聞の主筆であった福地源一郎の活動を概観した論文です。穏健かつ現実的に立憲主義と協調外交を提唱していた福地、その活躍と挫折とは? 五百旗頭薫「福地源一郎研究序説――東京日日新聞…

「本当のこと」を伝えない日本の新聞

「本当のこと」を伝えない日本の新聞 (双葉新書)posted with amazlet at 13.10.21マーティン・ファクラー 双葉社 売り上げランキング: 10,347Amazon.co.jpで詳細を見る とある講義で必要があって読みました。本書は日本語もできる著者の語り起こしだそうです…

朝鮮銀行―ある円通貨圏の興亡

貧弱な国力の日本が、日中戦争から八年間も戦争を続けることができた背景には、日銀券を中心にして、周辺に鮮銀券と台湾銀行券、さらには満州中央銀行券といった植民地通貨を配して障壁とし、戦争中には占領地に設立した中国連合準備銀行、中央儲備銀行など…

開国への道&北太平洋の「発見」

某ゼミで担当文献だったので読みました。江戸期日本の開国の歴史、それは果たしてどこから始まるのでしょうか?ペリー?いえ、そうではありません。1853年のペリー来航からさかのぼること60年、話はロシアから始まります。日本開国の歴史におけるロシアの存…

The Work of Invisibility: Radiation Hazards and Occupational Health in South African Uranium Production

戦後長年ウランの産出を行ってきた南アフリカ共和国。同国における放射線被曝規制は必ずしも「科学的」に行われてきたのではなく、政治的・人種的な思惑に左右され続けてきました。南アフリカにおける放射線規制の変遷を「テクノポリティクス」の視点から概…

首都圏外郭放水路見学ツアー

オシテオサレテ管理人氏の送別会ということで、本人たってのご希望により有志で「首都圏外郭放水路」の見学に行ってきました。アレンジしてくれたさえぼーさん、ありがとうございました。 首都圏外郭放水路は埼玉県東部に建設された世界最大級の人工の地下河…

ユリイカ「クマ特集」

いよいよ明日19時に迫ったユリイカ2013年9月号『クマ特集』ハングアウト読書会!所属や所在地を問わず、ネット環境とマイクとウェブカメラさえあれば地球の裏側からでも参加して頂けます。詳細はfacebookのイベントページに記載されていますので、「残暑厳し…

日本の起源

しばしば誤解されがちなのですが、歴史研究者とは単に過ぎ去った時代を骨董品のように修復し、愛でていればよいという仕事ではありません。むしろ細かくあえかにではあっても、今日のわれわれへと確かに続いている過去からの糸を織り直すことで、というもの…

十九世紀後半の中国における国際法をめぐる状況―ウィリアム・マーティンの書簡に基づく一考察―

列強の東アジア進出が本格化した19世紀後半、それはまた西洋の法秩序に東洋が「取り込まれていった」時代でもありました。中国で宣教師活動をしていた人物の国際法学者としての側面に着目し、当時の西洋・東洋における国際法をめぐる状況の多様さの一端を示…

50年前の憲法大論争

50年前の憲法大論争 (講談社現代新書)posted with amazlet at 13.08.19講談社 売り上げランキング: 168,928Amazon.co.jpで詳細を見る 本書は1956年3月16日金曜日に開かれた「第二十四回国会 衆議院内閣委員会公聴会」の記録です。公聴会は、岸信介をはじめと…

荒川放水路物語

荒川放水路の工事は、明治の終わりから大正をはさんで昭和のはじめまでの、世界と日本の歴史を背景に、掘削機が出現したり、不景気に見舞われたり、関東大震災に直撃されたりしながら進められていくのだった。歴史というものは、どこか遠い所での出来事で編…

科学技術動員と研究隣組―第二次大戦下日本の共同研究―

分野横断的研究の促進、基礎研究-応用研究-産業化という一気通貫プロセスの促進といった方向性は現代日本の科学技術開発の上で繰り返し強調されています。科学技術白書にも何度も現れるこれらの言葉ですが、そもそも研究開発における共同研究促進体制が初め…

人文科学の研究動員

戦前・戦中期における人文・社会科学研究体制の包括的研究書である『戦時下学問の統制と動員―日本諸学振興委員会の研究』の第5章「人文科学の研究動員」を読みました。当初は自然科学中心だった研究費の配分対象はなぜ人文・社会科学にも拡充されていったの…

第2次世界大戦前後の国鉄技術文化―鉄道車両用台車振動研究史の再検討を通じて―

映画「風立ちぬ」の主人公である堀越二郎は戦後も航空機開発に従事し、国産旅客機であるYS-11の設計にも携わります。一方で、戦前は航空機の開発に携わりながらも、戦後は鉄道技術開発に活躍の場を移した技術者達がいました。前回の記事で取り上げた松平靖ら…

零戦から新幹線まで

映画「風立ちぬ」の主人公・堀越二郎は零戦の開発者としても有名ですが、同様に零戦の開発に携わり、戦後は鉄道畑に転じて新幹線の開発に従事した研究者・松平精という人物が居ます。戦中・戦後と一貫して「機械振動」の分野に携わり、研究の遅れから招いて…

軍事技術者の戦争心理―海軍特別攻撃機「桜花」の事例―

映画「風立ちぬ」の主人公である堀越二郎はゼロ戦の開発者として名を馳せています。彼に限らず飛行機に対する愛とロマンに突き動かされつつも、兵器開発に携わらざるを得なかった技術者は多くいました。既存兵器の特攻への転用ではなく、「純」特攻兵器を開…

Wittgenstein's Aeronautical Investigation

宮崎駿監督といえば、その初期の作品「ルパン三世 カリオストロの城」でも有名です。作品中欠かせない小道具といえば伯爵が搭乗するオートジャイロですが、その基礎理論にはなんと希代の哲学者・ルートヴィヒ・ウィトゲンシュタインが関わっていました。分析…

谷文晁展@サントリー美術館

国際会議のために来日した外国人研究者二人を連れて、サントリー美術館で開催中の「谷文晁展」を見に行ってきました。サントリー美術館は初見参。管理人は「通訳案内士」という資格を持っていて、施設によっては「下見」「案内」名目で入場料が無料になった…

「飛行機の誕生と空気力学の形成―国家的研究開発の起源を求めて―」

零戦を開発した技術者・堀越二郎を主人公にした宮崎駿監督の映画「風立ちぬ」が公開されました。そこで本blogではこれを機会に、航空技術開発に関する科学史の文献をいくつか紹介していきたいと思います。宮崎監督が「評伝を作るつもりはなかったので何も調…

映画「スターリングラード」

映画「スターリングラード」を見ました。ミリオタ的には終始灰色のスターリングラードを舞台に繰り広げられる地味地味な狙撃戦は非常に面白いのですが、一緒に見ていた人の大半には不評でした(特にラブストーリーの絡め方)。今更中身をレビューする訳では…

「戦艦大和の最期」とGHQの検閲

1945年4月、瀬戸際に追い込まれた連合艦隊は「天一号作戦」を計画、日本海軍の象徴である戦艦大和は沖縄への海上特攻を敢行することになります。同月7日14時23分、坊ノ岬沖で数百機に及ぶ米軍機の攻撃を受けた大和は僅かな生存者を残して海中に没しました。…

アメリカにとっての天皇制という”謎"〜映画「終戦のエンペラー」〜

SYNODOS主催の試写会&トークショーで7月27日公開の映画「終戦のエンペラー」を見てきました。このような機会を下さった編集部の方々、トークショーに登壇された小菅信子さん、片山杜秀さんには感謝申し上げます。以下、簡単ではありますが映画の感想を記して…

第二次世界大戦期における文部省の科学論文題目速報事業および翻訳事業―犬丸秀雄関係文書を基に―

今や世界中から電子化された論文をダウンロードできる時代、学術知の一形態である論文は容易に越境し流通しています。しかし遡ること70年前、戦争の勃発により日本への知の移動は大きな危機に直面していました。「科学封鎖」により知の還流を妨げられた学…