「本当のこと」を伝えない日本の新聞


とある講義で必要があって読みました。本書は日本語もできる著者の語り起こしだそうですが、「Credibility Lost: The Crisis in Japanese Newspaper Journalism After Fukushima」という英題も付されています。編集部の意向とはいえ、センセーショナルで陰謀論的な印象を与えてしまいそうな日本語タイトルになってしまったのは若干残念ではあります。新聞記者が「書いた」本だけあってさらっと読めますが、3.11で浮き彫りになった日本大手メディアの問題点や可能性についてうまく網羅した良書だと言えるでしょう。


内容の細かい点については省きますが、2点だけ感想を。まず一つは、現在の日本の新聞は果たして民主主義の擁護者としての機能を期待されているのかということ。無論そうあるべきなのでしょうし、それを踏まえて新聞ごとにより特色ある論説や書名記事を配信していくべきなのでしょうが、読売1000万、朝日800万という世界有数の部数を見ても、それだけの数の読者を後半に満足させようとすればするほど特色というのは出しにくくなってしまうように思います。人口、そして読者の人口の大半を占める中高年向けに文字が大きくなり、情報量が減少している新聞・・・そもそもこれだけの数の読者のうち果たして何人が新聞に新聞としての役割を期待しているのでしょうか。例えば日経新聞が「ビジネスパーソンの話題共有掲示板」みたいなものと言われたりする中で、民主主義の擁護者としての新聞に期待される「権力批判」とか「真実を暴く」といった機能が日本の新聞に求められてきたのか。筆者がしめくくりで触れているように、現在の日本の新聞の在り方は最終的には我々読者も責任を負うべきところなのかもしれません。


2点目は地方紙の可能性です。発行部数が少ない一方で、地方に密着し、時には地方の権力と真っ向から対立してきた日本の地方紙の記事・取材を筆者は高く評価しています(例えば警察の裏金関連の報道で名を挙げた北海道新聞高知新聞)。そもそもニューヨークタイムズだってワシントンポストだってアメリカの一地方紙に過ぎなかった訳ですし、日本の地方紙がそのような方向性を目指すのも当然考えられる訳です。そのような文脈において、筆者が「日本の地方紙は英語で記事を配信してもいいくらいだ」とすら言っているのは今後の日本の新聞の方向性を考える上で傾聴に値するのではないでしょうか。

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