2013-01-01から1年間の記事一覧

外交儀礼から見た幕末日露文化交流史――描かれた相互イメージ・表象

日本の開国史を見るとき、北方において地理的に接触があったロシアとの交流を振り返ることの重要性が近年指摘されています。そのような文脈の中で、政治史的な側面よりも文化や表象、儀礼といった側面に重きを置いて分析を行った本を読みました。国交がなく…

治安維持法――なぜ政党政治は「悪法」を生んだか(その3)

その1では治安維持法の成立過程について、またその2では成立後40年代までの拡大過程についてまとめてきました。本記事(その3)では、1940年以後の治安維持法について第6章及び終章をもとにまとめます。戦時下の治安維持法はどのようなものだったのか?戦…

治安維持法――なぜ政党政治は「悪法」を生んだか(その2)

その1では1925年の成立に至るまでの過程をまとめましたが、本記事(その2)では1940年頃までの運用と改正についてまとめたいと思います。成立当時の政権は「言論文章の自由の尊重」(内相・若槻礼次郎)をうたっており、宣伝ではなく結社を取り締まるもの…

治安維持法――なぜ政党政治は「悪法」を生んだか(その1)

特定秘密保護法の参院採決が間近に迫っている中、我々は歴史から何を学べるのか?*11925年に成立した治安維持法につきまとう「言論の自由を制限し、戦前の反体制派を弾圧した稀代の悪法」というイメージから一度距離をおいて、その成立・改正・運用を扱った…

安田講堂工事現場学内公開

耐震補強のため工事中の安田講堂内部が学内向けに公開されたので見学してきました。写真や装飾品の展示など予想以上に充実していました。 安田講堂は安田財閥の創始者・安田善次郎の寄付により、後に総長になる内田祥三や岸田日出刀らの設計によって1925年に…

東京大学アカデミックコモンズ地点遺跡見学会

表題の見学会に行ってきました。普段は金網越しにしか見れない総合図書館前の発掘現場が間近で見られるとあって、主催者の予想を大きく上回る人出があったようです。素晴らしい。とはいっても現役学生の姿は少なく、中高年の方が多いようでした。開催時間中…

軍機保護法等の制定過程と問題点

今から約70年前、満州事変、日中戦争と国際情勢が緊迫する中で、軍事上の秘密の保護に関する法制度の整備もまた活発に進んでいました。一連の法整備の過程とその問題点を指摘した論文を読みました。 林武、和田朋幸、大八木敦裕「研究ノート 軍機保護法等…

お前はただの現在にすぎない―テレビになにが可能か

TBS闘争を契機に同社を退社しテレビマンユニオンを創立した萩元晴彦、村木良彦、今野勉の3名によるテレビ論の古典的名著を読みました。1953年にテレビ放送が開始されてから15年余、技術的にも方法論的にも依然メディアとしての方向性が定まらない段階にあっ…

シンポジウム「学生とともに考える学徒出陣70周年ー記憶と継承」

表題のシンポジウムに行ってきました。小柴ホールが半分くらい埋まっていたので80人くらいは来ていたのでしょうか、若い学生も多かったのがちょっと意外でした。質問に立った学部一年生の方もいて、少ないとはいえこのテーマに興味を持っている学生もいたの…

「挙国一致」内閣期における内務省土木系技術官僚

政党内閣が崩壊し挙国一致内閣が成立していった1930年代の政治状況の中で、内務省の土木系技術官僚たちはどのようにして自らの利益を実現しようとしていたのでしょうか?そこには、土木事業における技術的合理性を理想としつつも、利益実現のために政治と関…

日露戦争と日本在外公館の"外国新聞操縦"

1904年、日露戦争開戦。極東の小国が大国ロシアに挑んだ戦争の遂行にあたって必要とされたのは軍事力だけではありませんでした。主として戦況に関する報道に日本の意思を反映し、また黄禍論の拡大を防止することを目的として、各国に設置された在外公館を通…

クローズアップ現代「知られざる“同胞監視” 〜GHQ・日本人検閲官たちの告白 〜」

表題のドキュメンタリーを見ました。昨今のNSAによる盗聴のニュースが背景にあるとはいえ、こういう歴史の1ページに光が当たるのは歴史学に携わる者としてはまず嬉しいところです。自分自身は検閲史が専門ではないのですが、以前縁あって『「戦艦大和の最期…

故井伊直弼を考課する――直弼五十回忌までの歴史批評

近江絹糸労働争議の解釈をめぐって市と編纂委員会が対立、新たに編纂した市史の現代版が出ない!?ということで話題になっている彦根市ですが、気になっていろいろ調べているうちにこんな論文にたどり着きました。維新後長く逆賊の汚名を着せられていた彦根…

プロメテウスの罠――明かされなかった福島原発事故の真実

ギリシャ神話によれば、人類に火を与えたのはプロメテウスだった。火を得たことで、人類は文明を発達させる事ができた。化石燃料の火は生産力を伸ばし、やがて人類は原子の火を獲得する。それは「夢のエネルギー」とも形容された。 しかし、落とし穴があった…

昭和45年11月25日

「英雄のいない国は不幸だ!」 「違うぞ、英雄を必要とする国が不幸なんだ。」 ブレヒト『ガリレイの生涯』より 昭和45年11月25日、陸上自衛隊東部方面総監部に押し入った三島由紀夫は総監を人質にとった後、駐屯地の自衛官に向けて檄文を配し演説を行います…

綿業が紡ぐ世界史――日本郵船のボンベイ航路

日本郵船が開設した日本で最初の国際定期遠洋航路、それは神戸とボンベイを結ぶものでした。1893年に開設されたこの汽船航路は、当時のグローバルな経済、金融、政治状況と密接に関わっていたのです。 秋田茂「綿業が紡ぐ世界史――日本郵船のボンベイ航路」『…

福地源一郎研究序説――東京日日新聞の社説より

とある講義で必要があって読みました。明治期の有力紙の一つ、東京日日新聞の主筆であった福地源一郎の活動を概観した論文です。穏健かつ現実的に立憲主義と協調外交を提唱していた福地、その活躍と挫折とは? 五百旗頭薫「福地源一郎研究序説――東京日日新聞…

「本当のこと」を伝えない日本の新聞

「本当のこと」を伝えない日本の新聞 (双葉新書)posted with amazlet at 13.10.21マーティン・ファクラー 双葉社 売り上げランキング: 10,347Amazon.co.jpで詳細を見る とある講義で必要があって読みました。本書は日本語もできる著者の語り起こしだそうです…

朝鮮銀行―ある円通貨圏の興亡

貧弱な国力の日本が、日中戦争から八年間も戦争を続けることができた背景には、日銀券を中心にして、周辺に鮮銀券と台湾銀行券、さらには満州中央銀行券といった植民地通貨を配して障壁とし、戦争中には占領地に設立した中国連合準備銀行、中央儲備銀行など…

開国への道&北太平洋の「発見」

某ゼミで担当文献だったので読みました。江戸期日本の開国の歴史、それは果たしてどこから始まるのでしょうか?ペリー?いえ、そうではありません。1853年のペリー来航からさかのぼること60年、話はロシアから始まります。日本開国の歴史におけるロシアの存…

The Work of Invisibility: Radiation Hazards and Occupational Health in South African Uranium Production

戦後長年ウランの産出を行ってきた南アフリカ共和国。同国における放射線被曝規制は必ずしも「科学的」に行われてきたのではなく、政治的・人種的な思惑に左右され続けてきました。南アフリカにおける放射線規制の変遷を「テクノポリティクス」の視点から概…

首都圏外郭放水路見学ツアー

オシテオサレテ管理人氏の送別会ということで、本人たってのご希望により有志で「首都圏外郭放水路」の見学に行ってきました。アレンジしてくれたさえぼーさん、ありがとうございました。 首都圏外郭放水路は埼玉県東部に建設された世界最大級の人工の地下河…

ユリイカ「クマ特集」

いよいよ明日19時に迫ったユリイカ2013年9月号『クマ特集』ハングアウト読書会!所属や所在地を問わず、ネット環境とマイクとウェブカメラさえあれば地球の裏側からでも参加して頂けます。詳細はfacebookのイベントページに記載されていますので、「残暑厳し…

日本の起源

しばしば誤解されがちなのですが、歴史研究者とは単に過ぎ去った時代を骨董品のように修復し、愛でていればよいという仕事ではありません。むしろ細かくあえかにではあっても、今日のわれわれへと確かに続いている過去からの糸を織り直すことで、というもの…

十九世紀後半の中国における国際法をめぐる状況―ウィリアム・マーティンの書簡に基づく一考察―

列強の東アジア進出が本格化した19世紀後半、それはまた西洋の法秩序に東洋が「取り込まれていった」時代でもありました。中国で宣教師活動をしていた人物の国際法学者としての側面に着目し、当時の西洋・東洋における国際法をめぐる状況の多様さの一端を示…

50年前の憲法大論争

50年前の憲法大論争 (講談社現代新書)posted with amazlet at 13.08.19講談社 売り上げランキング: 168,928Amazon.co.jpで詳細を見る 本書は1956年3月16日金曜日に開かれた「第二十四回国会 衆議院内閣委員会公聴会」の記録です。公聴会は、岸信介をはじめと…

荒川放水路物語

荒川放水路の工事は、明治の終わりから大正をはさんで昭和のはじめまでの、世界と日本の歴史を背景に、掘削機が出現したり、不景気に見舞われたり、関東大震災に直撃されたりしながら進められていくのだった。歴史というものは、どこか遠い所での出来事で編…

科学技術動員と研究隣組―第二次大戦下日本の共同研究―

分野横断的研究の促進、基礎研究-応用研究-産業化という一気通貫プロセスの促進といった方向性は現代日本の科学技術開発の上で繰り返し強調されています。科学技術白書にも何度も現れるこれらの言葉ですが、そもそも研究開発における共同研究促進体制が初め…

人文科学の研究動員

戦前・戦中期における人文・社会科学研究体制の包括的研究書である『戦時下学問の統制と動員―日本諸学振興委員会の研究』の第5章「人文科学の研究動員」を読みました。当初は自然科学中心だった研究費の配分対象はなぜ人文・社会科学にも拡充されていったの…

第2次世界大戦前後の国鉄技術文化―鉄道車両用台車振動研究史の再検討を通じて―

映画「風立ちぬ」の主人公である堀越二郎は戦後も航空機開発に従事し、国産旅客機であるYS-11の設計にも携わります。一方で、戦前は航空機の開発に携わりながらも、戦後は鉄道技術開発に活躍の場を移した技術者達がいました。前回の記事で取り上げた松平靖ら…