50年前の憲法大論争
本書は1956年3月16日金曜日に開かれた「第二十四回国会 衆議院内閣委員会公聴会」の記録です。公聴会は、岸信介をはじめとする60人の議員が提出した「憲法調査会法案」(憲法に関する審議機関を内閣に属する形で設立するという趣旨の法案)の審議の一環として開催されました。神川彦松、中村哲、戒能通孝ら3人の学者を招き、自民党4名(山崎巌、眞崎勝次、辻政信、大坪保雄)社会党4名(石橋政嗣、片島港、飛鳥田一雄、茜ヶ久保重光)の議院が質問に立つという形式で、本会議をはさんで丸一日が費やされています。
内容については、現在でも論点になる憲法に関連する諸問題を網羅しているといってもいいでしょう。いわゆる「押し付け憲法」の問題、9条と自衛隊の問題、改憲勢力が提起した改正案に付随する基本的人権の制約の問題等々―監修者は、これらの論点は現代でも色褪せないものであると評価している反面、50年経っても色褪せないのはそれらについて議論が深まってこなかったことの現れでもあると指摘しています。
しかし監修者も強調しているように、国家主義の高まり、戦時中の言論弾圧、敗戦、占領軍政下でのパージ、そして占領軍の下での憲法制定過程といった一連の出来事をまさに目の前で見、体験してきた登壇者たちの議論は「身体化された議論の緊張感」をはらんでいます。50年後の今、憲法改正論議は果たして切実なる「身体性」を帯びたものとして行われているのか・・・50年前のこの議論を今もう一度振り返ってみることの重要性に直面せざるを得ません。