Review
2017年7月25日、カメラ・光学機器製造メーカーのニコンは創業100周年を迎えました。ニコンの前身「日本光学工業株式会社」は、双眼鏡や測距儀といった戦争に必要な光学兵器を国産化するために、旧帝国海軍や財閥が主導して誕生した国策会社でした…
硬派の社会派映画としてアカデミー作品賞を受賞した『スポットライト 世紀のスクープ』を観てきました。 あらすじ 2001年の夏、ボストン・グローブ紙に新しい編集局長のマーティ・バロンが着任する。マイアミからやってきたアウトサイダーのバロンは、地元出…
「1934年、満洲。満洲国外交部で働く杉原千畝(唐沢寿明)は、堪能なロシア語と独自の諜報網を駆使し、ソ連から北満鉄道の経営権を買い取る交渉を有利に進めるための情報を集めていた。翌年、千畝の収集した情報のおかげで北満鉄道譲渡交渉は、当初のソ連の…
「20世紀が終わる頃、ある裁判のニュースが世界を仰天させた。アメリカに暮らすマリア・アルトマン(82歳)が、オーストリア政府を訴えたのだ。“オーストリアのモナリザ”と称えられ、国の美術館に飾られてきたクリムトの名画〈黄金のアデーレ〉を、「私に返…
※ISIS Focus読書会用のまとめです。 Warwick Anderson, Racial Conception in the Global South, Isis, Vol.105, No.4(December 2014), pp.782-792 著者のWarwickによれば、「人種科学(具体的には自然人類学や生物学)」という分野は基本的に北半球における…
「ロシア×科学技術」といったときのイメージは「重工業」「宇宙開発」「核兵器」といったものが多いかもしれない。冷戦期の米ソ対立の中でのロシアの科学はそういった面が強いのは確かだろう。ソ連崩壊後20年以上経つ今、ロシアの科学技術はどうなっているの…
戦前期における思想・言論弾圧事件として著名な矢内原事件(1937)を出版界の状況、大学の内部抗争、政府からの圧力といった多面的な視座から緻密に描き、現代に通じる思想的課題を提示した本。学内で陳謝することをもって幕引きが図られようとしたさなか、…
設立から約60年が経とうとしているNASA(米航空宇宙局)の歴史を概観した本を読了。単なる宇宙開発・宇宙科学の歴史ではなく、政治や行政といった要素を中心に据えたNASAの「組織史」を俯瞰することができる良書だった。 NASA ―宇宙開発の60年 (中公新書)pos…
明治初期から第二次世界大戦にかけて、日本の産学官軍連携はどのような状況にあったのか?第一次世界大戦を契機とした、産学官軍の密接な連携を詳述した論文。本論文では、大学の学知の中でも工学、医学、化学といった応用部門が取り上げられその産学官軍の…
昨日の続きで第3章と第4章を読みました。 欲望と消費の系譜 (消費文化史)posted with amazlet at 14.09.03ジョン・スタイルズ ジョン・ブリューア イヴ・ローゼンハフト アヴナー・オファ エヌティティ出版 売り上げランキング: 59,232Amazon.co.jpで詳細を…
来週開催される読書会に向けてつらつらと読んでいます。物質的なものだけでなく非物質的なものも消費の対象として捉え、多様な形態をとる「消費文化史」を描き出そうとする試みの書です。 草光俊雄/眞嶋史叙『欲望と消費の系譜』NTT出版, 2014 欲望と消費の…
昭和前期における日本の物理学者たちの研究に対する姿勢を「競争的科学観」という概念を設定して分析した論考を読みました。「西洋においつきおいこせ」、その内実は複雑さに満ちていたようです。 岡本拓司, 「原子核・素粒子物理学と競争的科学観」『昭和前…
現代における知的営み、それはその外部としての「社会」を想定することなしに語る事はできません。メディチ家がレオナルド・ダ・ヴィンチを養っていた時代は遥か昔に終わり、現代の学術研究は筆者の言う種々の「社会的基盤」を伴うことなしに営まれることは…
『月刊ポスドク』の表紙ができたらしいw pic.twitter.com/SwC2ceRdIO— Yuichiro Kobayashi (@langstat) 2014, 5月 19 twitterで表紙が作成されたところ、一部ポスドクの皆さんが本気を出して中身まで作ってしまったという『月刊ポスドク』8月号を読みました…
『現代思想2014年8月号-特集・科学者 科学技術のポリティカルエコノミー』に掲載された中尾麻伊香さんの論文を読みました。理研という「科学者の自由な楽園」は、国民との危うい関係の上に成り立っていたとも言えるのではないでしょうか。 中尾麻伊香「「科…
Bibliotheca Hermeticaを主宰されているHiro Hiraiさんが7月22日から25日にかけて「科学革命の史的コンテクスト インテレクチュアル・ヒストリーの方法と実践」と題して駒場にて集中講義を行われました。私が報告を担当した文献について簡単にまとめを置いて…
Nature誌が第1次世界大戦勃発から100年、第2次世界大戦勃発から75年を契機として、戦争と科学に関する論考を断続的に掲載していくようです(参考記事:http://www.nature.com/news/conflict-of-interest-1.14470)。まず公開された二つの論考のうち、David K…
大正期のラジウム温泉ブーム、そこでは勃興期の放射線医学が大きな役割を果たしていました。しかしその構図は単に「近代科学としての医学が温泉の効能に裏付けを与えていった」という一方向的なものではありませんでした。近代日本において西洋由来の科学知…
日本の開国史を見るとき、北方において地理的に接触があったロシアとの交流を振り返ることの重要性が近年指摘されています。そのような文脈の中で、政治史的な側面よりも文化や表象、儀礼といった側面に重きを置いて分析を行った本を読みました。国交がなく…
その1では治安維持法の成立過程について、またその2では成立後40年代までの拡大過程についてまとめてきました。本記事(その3)では、1940年以後の治安維持法について第6章及び終章をもとにまとめます。戦時下の治安維持法はどのようなものだったのか?戦…
その1では1925年の成立に至るまでの過程をまとめましたが、本記事(その2)では1940年頃までの運用と改正についてまとめたいと思います。成立当時の政権は「言論文章の自由の尊重」(内相・若槻礼次郎)をうたっており、宣伝ではなく結社を取り締まるもの…
特定秘密保護法の参院採決が間近に迫っている中、我々は歴史から何を学べるのか?*11925年に成立した治安維持法につきまとう「言論の自由を制限し、戦前の反体制派を弾圧した稀代の悪法」というイメージから一度距離をおいて、その成立・改正・運用を扱った…
今から約70年前、満州事変、日中戦争と国際情勢が緊迫する中で、軍事上の秘密の保護に関する法制度の整備もまた活発に進んでいました。一連の法整備の過程とその問題点を指摘した論文を読みました。 林武、和田朋幸、大八木敦裕「研究ノート 軍機保護法等…
TBS闘争を契機に同社を退社しテレビマンユニオンを創立した萩元晴彦、村木良彦、今野勉の3名によるテレビ論の古典的名著を読みました。1953年にテレビ放送が開始されてから15年余、技術的にも方法論的にも依然メディアとしての方向性が定まらない段階にあっ…
政党内閣が崩壊し挙国一致内閣が成立していった1930年代の政治状況の中で、内務省の土木系技術官僚たちはどのようにして自らの利益を実現しようとしていたのでしょうか?そこには、土木事業における技術的合理性を理想としつつも、利益実現のために政治と関…
1904年、日露戦争開戦。極東の小国が大国ロシアに挑んだ戦争の遂行にあたって必要とされたのは軍事力だけではありませんでした。主として戦況に関する報道に日本の意思を反映し、また黄禍論の拡大を防止することを目的として、各国に設置された在外公館を通…
近江絹糸労働争議の解釈をめぐって市と編纂委員会が対立、新たに編纂した市史の現代版が出ない!?ということで話題になっている彦根市ですが、気になっていろいろ調べているうちにこんな論文にたどり着きました。維新後長く逆賊の汚名を着せられていた彦根…
ギリシャ神話によれば、人類に火を与えたのはプロメテウスだった。火を得たことで、人類は文明を発達させる事ができた。化石燃料の火は生産力を伸ばし、やがて人類は原子の火を獲得する。それは「夢のエネルギー」とも形容された。 しかし、落とし穴があった…
「英雄のいない国は不幸だ!」 「違うぞ、英雄を必要とする国が不幸なんだ。」 ブレヒト『ガリレイの生涯』より 昭和45年11月25日、陸上自衛隊東部方面総監部に押し入った三島由紀夫は総監を人質にとった後、駐屯地の自衛官に向けて檄文を配し演説を行います…
日本郵船が開設した日本で最初の国際定期遠洋航路、それは神戸とボンベイを結ぶものでした。1893年に開設されたこの汽船航路は、当時のグローバルな経済、金融、政治状況と密接に関わっていたのです。 秋田茂「綿業が紡ぐ世界史――日本郵船のボンベイ航路」『…