プロメテウスの罠――明かされなかった福島原発事故の真実
ギリシャ神話によれば、人類に火を与えたのはプロメテウスだった。火を得たことで、人類は文明を発達させる事ができた。化石燃料の火は生産力を伸ばし、やがて人類は原子の火を獲得する。それは「夢のエネルギー」とも形容された。
しかし、落とし穴があった。プロメテウスによって文明を得た人類が、いま原子の火に悩んでいる。
—本書、まえがきより
言わずと知れた朝日新聞の有名連載が書籍化されたものを、とある講義で必要になったので読みました。第一巻は震災直後のことが中心ですが、被災地最前線から放射線測定に関わった科学者、そして混乱する霞ヶ関・永田町を手広く押さえ、迫真の描写で当時の雰囲気を生々しく再現しています。ノンフィクションドラマのようなきらいもありますが、多くの関係者にインタビューを重ね、それを再構成して一つの見方として世に問うという特別報道部の姿勢は評価できるのではないかと思います(見知った知人が二人も出てきたのには少々驚きましたが)。
一方で、饒舌なインタビュイーを肯定的に描き、口を閉ざした者は批判的なニュアンスで描くという雰囲気を一貫して感じるのも事実です。「取材して得た事実をもとに記事を書く」逆に言うと「取材しても得られなかった事実を埋める憶測は書かない」というのはジャーナリズムの基本であり良心なのでしょうが、それは同時にジャーナリズムの限界でもあるのではないかとふと思いました。
(追記)とはいえ、本書ではインタビューに答えなかった人物も適宜紹介していて、その意味ではフェアなのかもしれない。
(追記2)官邸の混乱を描写したところでは自衛隊幹部の気配がまったくと言っていいほどない。原子力災害ならまずは保安院というのはいいとして、結局のところ保安院が適切な技術官僚を輩出できず、また情報も不足していた中にあっては、不測の事態に身命を賭して組織的に対応するという使命を帯びている「軍隊指揮官」あるいは「軍隊経験者」が中枢にいれば違ったのかもしれない。
アメリカでは、大統領選で国のリーダーを選ぶ際に「Commander in Chief」(最高司令官)としての適性も重視される。その意味で州兵の最高指揮官である州知事の経験というのはやはり大きいらしいのだけど、日本の場合首相の選出にあたって「危機管理能力」というのが正面から問われることはホントなかったのだなと感じる。