映画「スターリングラード」

映画「スターリングラード」を見ました。ミリオタ的には終始灰色のスターリングラードを舞台に繰り広げられる地味地味な狙撃戦は非常に面白いのですが、一緒に見ていた人の大半には不評でした(特にラブストーリーの絡め方)。今更中身をレビューする訳ではありませんが、さえぼーさんのご指摘で一点気づいた事があったのでメモ。※ネタバレあり



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映画の終盤、主人公ザイツェフを仕留めるためにドイツから派遣されたケーニッヒ少佐は上官からザイツェフの死を告げられます。上官曰く「彼の死体から身分証が回収された」というわけです。しかし実際には戦場で眠ってしまったザイツェフから火事場泥棒が盗んだものが流れてきただけであり、身分証を失ったものの彼は生きています。それでもなおドイツ軍はザイツェフの死を喧伝し、ソ連側で指揮を執るフルシチョフも彼が死んだのかどうか確認を求める展開に。結局ケーニッヒは翌日の帰国を命令され、その場で上官から認識票を回収されます。ストーリー上は勝手な行動をするなという意味合いですが、この場面以後のクライマックスでは「身分を証明するもの」を保持しない二人が対決するという展開にになっています。


さて映画の外に目をやると、ザイツェフが戦後まで生き残ったのは事実ですが、ザイツェフを仕留めに行ったのがケーニッヒ少佐であるのかどうかは定かではないとされています。(調べるのが面倒なので)wikipediaによると、ドイツ側にそのような記録はなく、あくまでもソ連側のプロパガンダであるとの指摘があるようです。つまりこの史実が曖昧な状況を踏まえ、映画の最終盤ではあくまでも「匿名の二人」が一騎打ちをし、そして「認識票を持たない」ケーニッヒが討ち取られるという結末になるのです。ノンフィクション映画という訳ではないので制作者が史実をどこまで厳密に意識していたかは定かでありませんが、少なくとも二人が名札を失った段階で「虚構」に切り替わるのではないかという視点は今回観て初めて気づかされたものでした。



↓例えばこのノンフィクションではザイツェフに対するドイツ側狙撃手は「トルヴァルト大佐」という名前になっています

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