Review

福地源一郎研究序説――東京日日新聞の社説より

とある講義で必要があって読みました。明治期の有力紙の一つ、東京日日新聞の主筆であった福地源一郎の活動を概観した論文です。穏健かつ現実的に立憲主義と協調外交を提唱していた福地、その活躍と挫折とは? 五百旗頭薫「福地源一郎研究序説――東京日日新聞…

「本当のこと」を伝えない日本の新聞

「本当のこと」を伝えない日本の新聞 (双葉新書)posted with amazlet at 13.10.21マーティン・ファクラー 双葉社 売り上げランキング: 10,347Amazon.co.jpで詳細を見る とある講義で必要があって読みました。本書は日本語もできる著者の語り起こしだそうです…

朝鮮銀行―ある円通貨圏の興亡

貧弱な国力の日本が、日中戦争から八年間も戦争を続けることができた背景には、日銀券を中心にして、周辺に鮮銀券と台湾銀行券、さらには満州中央銀行券といった植民地通貨を配して障壁とし、戦争中には占領地に設立した中国連合準備銀行、中央儲備銀行など…

開国への道&北太平洋の「発見」

某ゼミで担当文献だったので読みました。江戸期日本の開国の歴史、それは果たしてどこから始まるのでしょうか?ペリー?いえ、そうではありません。1853年のペリー来航からさかのぼること60年、話はロシアから始まります。日本開国の歴史におけるロシアの存…

The Work of Invisibility: Radiation Hazards and Occupational Health in South African Uranium Production

戦後長年ウランの産出を行ってきた南アフリカ共和国。同国における放射線被曝規制は必ずしも「科学的」に行われてきたのではなく、政治的・人種的な思惑に左右され続けてきました。南アフリカにおける放射線規制の変遷を「テクノポリティクス」の視点から概…

ユリイカ「クマ特集」

いよいよ明日19時に迫ったユリイカ2013年9月号『クマ特集』ハングアウト読書会!所属や所在地を問わず、ネット環境とマイクとウェブカメラさえあれば地球の裏側からでも参加して頂けます。詳細はfacebookのイベントページに記載されていますので、「残暑厳し…

日本の起源

しばしば誤解されがちなのですが、歴史研究者とは単に過ぎ去った時代を骨董品のように修復し、愛でていればよいという仕事ではありません。むしろ細かくあえかにではあっても、今日のわれわれへと確かに続いている過去からの糸を織り直すことで、というもの…

十九世紀後半の中国における国際法をめぐる状況―ウィリアム・マーティンの書簡に基づく一考察―

列強の東アジア進出が本格化した19世紀後半、それはまた西洋の法秩序に東洋が「取り込まれていった」時代でもありました。中国で宣教師活動をしていた人物の国際法学者としての側面に着目し、当時の西洋・東洋における国際法をめぐる状況の多様さの一端を示…

50年前の憲法大論争

50年前の憲法大論争 (講談社現代新書)posted with amazlet at 13.08.19講談社 売り上げランキング: 168,928Amazon.co.jpで詳細を見る 本書は1956年3月16日金曜日に開かれた「第二十四回国会 衆議院内閣委員会公聴会」の記録です。公聴会は、岸信介をはじめと…

荒川放水路物語

荒川放水路の工事は、明治の終わりから大正をはさんで昭和のはじめまでの、世界と日本の歴史を背景に、掘削機が出現したり、不景気に見舞われたり、関東大震災に直撃されたりしながら進められていくのだった。歴史というものは、どこか遠い所での出来事で編…

科学技術動員と研究隣組―第二次大戦下日本の共同研究―

分野横断的研究の促進、基礎研究-応用研究-産業化という一気通貫プロセスの促進といった方向性は現代日本の科学技術開発の上で繰り返し強調されています。科学技術白書にも何度も現れるこれらの言葉ですが、そもそも研究開発における共同研究促進体制が初め…

人文科学の研究動員

戦前・戦中期における人文・社会科学研究体制の包括的研究書である『戦時下学問の統制と動員―日本諸学振興委員会の研究』の第5章「人文科学の研究動員」を読みました。当初は自然科学中心だった研究費の配分対象はなぜ人文・社会科学にも拡充されていったの…

第2次世界大戦前後の国鉄技術文化―鉄道車両用台車振動研究史の再検討を通じて―

映画「風立ちぬ」の主人公である堀越二郎は戦後も航空機開発に従事し、国産旅客機であるYS-11の設計にも携わります。一方で、戦前は航空機の開発に携わりながらも、戦後は鉄道技術開発に活躍の場を移した技術者達がいました。前回の記事で取り上げた松平靖ら…

零戦から新幹線まで

映画「風立ちぬ」の主人公・堀越二郎は零戦の開発者としても有名ですが、同様に零戦の開発に携わり、戦後は鉄道畑に転じて新幹線の開発に従事した研究者・松平精という人物が居ます。戦中・戦後と一貫して「機械振動」の分野に携わり、研究の遅れから招いて…

軍事技術者の戦争心理―海軍特別攻撃機「桜花」の事例―

映画「風立ちぬ」の主人公である堀越二郎はゼロ戦の開発者として名を馳せています。彼に限らず飛行機に対する愛とロマンに突き動かされつつも、兵器開発に携わらざるを得なかった技術者は多くいました。既存兵器の特攻への転用ではなく、「純」特攻兵器を開…

Wittgenstein's Aeronautical Investigation

宮崎駿監督といえば、その初期の作品「ルパン三世 カリオストロの城」でも有名です。作品中欠かせない小道具といえば伯爵が搭乗するオートジャイロですが、その基礎理論にはなんと希代の哲学者・ルートヴィヒ・ウィトゲンシュタインが関わっていました。分析…

「飛行機の誕生と空気力学の形成―国家的研究開発の起源を求めて―」

零戦を開発した技術者・堀越二郎を主人公にした宮崎駿監督の映画「風立ちぬ」が公開されました。そこで本blogではこれを機会に、航空技術開発に関する科学史の文献をいくつか紹介していきたいと思います。宮崎監督が「評伝を作るつもりはなかったので何も調…

映画「スターリングラード」

映画「スターリングラード」を見ました。ミリオタ的には終始灰色のスターリングラードを舞台に繰り広げられる地味地味な狙撃戦は非常に面白いのですが、一緒に見ていた人の大半には不評でした(特にラブストーリーの絡め方)。今更中身をレビューする訳では…

「戦艦大和の最期」とGHQの検閲

1945年4月、瀬戸際に追い込まれた連合艦隊は「天一号作戦」を計画、日本海軍の象徴である戦艦大和は沖縄への海上特攻を敢行することになります。同月7日14時23分、坊ノ岬沖で数百機に及ぶ米軍機の攻撃を受けた大和は僅かな生存者を残して海中に没しました。…

アメリカにとっての天皇制という”謎"〜映画「終戦のエンペラー」〜

SYNODOS主催の試写会&トークショーで7月27日公開の映画「終戦のエンペラー」を見てきました。このような機会を下さった編集部の方々、トークショーに登壇された小菅信子さん、片山杜秀さんには感謝申し上げます。以下、簡単ではありますが映画の感想を記して…

第二次世界大戦期における文部省の科学論文題目速報事業および翻訳事業―犬丸秀雄関係文書を基に―

今や世界中から電子化された論文をダウンロードできる時代、学術知の一形態である論文は容易に越境し流通しています。しかし遡ること70年前、戦争の勃発により日本への知の移動は大きな危機に直面していました。「科学封鎖」により知の還流を妨げられた学…

「技術官僚の政治参画–日本の科学技術行政の幕開き」

近代日本の発展を担った技術官僚たち、当初「お雇い外国人」の代替者でしかなかった彼らはいかにして科学技術行政中枢における地位を確立していったのでしょうか。法科系官僚の圧倒的優位に対し、結社と運動によって団結し、総力戦体制の形成と軌を一にして…

1600年前の図書館戦争

映画「アレクサンドリア」を見ました。主人公のヒュパティアについてはここを参照。 4世紀、ローマ帝国末期のエジプト、アレクサンドリア。宗教をめぐる市民の対立から街が荒廃する中、類まれなる美貌と明晰な頭脳を持った女性天文学者ヒュパティア(レイチ…

人文・社会科学の国際化と言語の問題

人文・社会科学の国際化が不十分だ!という話は折に触れてなされる訳ですが、その実態はどうなっているのでしょうか?そして外国語に対する認識とは?人文・社会科学の国際化における問題について、定量的なデータを元に各学問分野における状況を分析した論…

科学技術における「軍産学複合体」の歴史的考察

戦前、戦中の科学技術研究体制と海軍との関係を「軍産学複合体」*1という視点で捉え、その意義と帰結を考察した論文を読みました。科学技術の専門家集団としての海軍は軍産学複合体の中でどのような役割を果たしていたのでしょうか? 畑野勇, 「科学技術にお…

技術者倫理の展望 –その歴史的背景と今後–

技術者倫理はなぜ必要とされ、発展してきたのか?そこには日米欧で異なる歴史的・社会的文脈がありました。 金光秀和, 「技術者倫理の展望 –その歴史的背景と今後–」『情報知識学会誌』情報知識学会, 16(3), 2006, pp. 24-38 ※ http://ci.nii.ac.jp/naid/110…

グローバルな運動をめぐる連携のあり方−サミット抗議行動におけるレパートリーの伝達をめぐって−

グローバルな社会運動の作法ともいえる「レパートリー*1」 、それはどのようにして伝達され、実行に移されるのでしょうか?被害者、運動従事者、支援者を必ずしも明確には特定できない反グローバリズム運動を事例として、社会運動体同士の「連携」の実態を分…

一九一〇〜五〇年代日本における美術史学の展開―学術インフラ、学問的アイデンティティ、研究費受給体制ー

学問分野はどのようにして独立・存続していくのでしょうか?美術史学における学術インフラ、学問的アイデンティティ、研究費受給体制を検討する事により、その具体的な過程と意義を明らかにした論文を読みました。筆者によれば、「1910〜1950年代の美術史学…

櫻井錠二と日本近代における学術振興の展開

タイムラインが学振採用者の話題で盛り上がっていたので、日本学術振興会の設立に大きな役割を果たし、初代理事長に就任した化学者・櫻井錠二に関する論文を読んでみました。大学のグローバル化、基礎研究の充実、研究費の増加が一部で叫ばれる昨今ですが、1…

京都学派と日本海軍-新史料「大島メモ」をめぐって

隣の部屋の本棚に転がっていたので手に取りました。「思想戦」に巻き込まれる事を余儀なくされた京都学派の思想と行動とはどのようなものだったのでしょうか?海軍の依頼を受けて行われていた会合の内容を描写するメモを手がかりに、京都学派の「反体制的な…