グローバルな運動をめぐる連携のあり方−サミット抗議行動におけるレパートリーの伝達をめぐって−

グローバルな社会運動の作法ともいえる「レパートリー*1」 、それはどのようにして伝達され、実行に移されるのでしょうか?被害者、運動従事者、支援者を必ずしも明確には特定できない反グローバリズム運動を事例として、社会運動体同士の「連携」の実態を分析した論文を読みました。


なお、本論文は著者にご恵投いただきました。この場を借りてお礼申し上げます。



富永京子, 「グローバルな運動をめぐる連携のあり方−サミット抗議行動におけるレパートリーの伝達をめぐって−」 『フォーラム現代社会学』 関西社会学編集委員会, 第 13 号, 2013, pp.17–30




筆者は北海道洞爺湖 G8 サミットを対象として、 運動従事者へのインタビュー結果を分析することにより、この「レパートリー」がいかにして伝達されるかを明らかにしていきます。具体的な達成目標が明確に確定しにくい時限的、局所的な反グローバリズム運動では、 「目的の達成」よりも「手段の実行」が重要であり、その意味でレパートリーを分析する意義があることを筆者は強調します。


被害者を特定しにくい反グローバリズム運動においては、必ずしも被害者主体の運動が形成されるとは限りません。活動主体は現地で普段から活動している地元の人々であり、時限性・極地性を持つ反グローバリズム運動(反サミット運動)においてはレパートリーが各運動体内部に蓄積されている訳ではありません。海外におけるレパートリーは人を介した伝達を経て国内の運動体に持ち込まれますが、直接的な伝達以上に「以前の抗議行動においても同様の抗議形態が用いられていたという「前例」の存在」が重要であると筆者は指摘します。


また、伝達されたレパートリーは必ずしもその全てが実行されている訳ではありません。食事の提供を担ったあるインタビュイーは、ベジタリアン食の提供と地元の特徴的な食事が相反する状況の中で、反グローバリズム運動の典型的レパートリーである前者に理解を示しつつも、それを拒否して後者の食事を提供します。運動の場や従事者が特定されない反グローバリズム運動は、取捨選択を経ながらも、定例化するレパートリーによってそのアイデンティティを保っているのです。



      

*1:「レパートリー」とは社会運動体による活動の具体的な手段のことを指し、 「ロビイング」 「メディア広報」 「キャンプ」といったものが挙げられます。 また本稿においては、 レパートリーを実行可能にするメタな次元としての 「レパートリーのレパートリー」 (例えば会議場所や資金の確保、食事の提供)も射程に収められています。