富永・2013「社会運動のイベント性が生み出す運動参加ー2008年北海道洞爺湖G8サミット抗議活動を事例として」
安倍総理が北アイルランドでのG8サミットへ飛び立ちました。一方現地では抗議活動も起きているようです。というわけで、折よく?サミット関連で著者からお送りいただいた論文があるので紹介します。
2008年に開催された洞爺湖サミットへの抗議活動は、G8に対する抗議活動の基盤が脆弱な日本において、札幌という地方都市を舞台として生じたにもかかわらず、5000人という異例の動員数を数えました。「古臭い」「かっこわるい」というイメージにつきまとわれる社会運動ですが、それまで社会運動を忌避していた人々をサミット抗議活動に誘ったものはなんだったのでしょうか?
富永京子, 「社会運動のイベント性が生み出す運動参加―2008年北海道洞爺湖G8サミット抗議活動を事例として―」『ソシオロジ』ソシオロジ編輯室, 57巻3号, pp109-126, 2013.
まず筆者は、資源動員論が提示する運動参加の動機の三類型を分析視角として提示します。それは、①「主張への理解や運動の成功可能性の自覚といった認知的要因」、②「過去の運動経験や組織・ネットワークへの所属といった構造的要因」、そして③「抗議活動そのものがもつ選択的誘因(集合行為そのものから純粋に得られる報酬、すなわち、運動参加によって獲得可能な認知的・非経済的報酬)」の3つです。
筆者はこの3つの類型を応用し、サミット抗議活動に参加した人々30名へのインタビュー結果を分析していきます。2008年洞爺湖サミット抗議活動への参加については、①&②を基盤とする関与の形態、②のみを基盤とする関与の形態、そして③を基盤とする関与の形態があると筆者は分析します。
上記の分類を本稿で扱われているサミット抗議活動にあてはめて具体的に記述してみると、①&②「元々社会運動の経験やネットワークがあり、そうした回路を通じサミット抗議活動に関する問題意識をもつことで、運動に関与する」、②のみ「過去の運動経験やそれを通じて構築した人間関係はあるが、サミット抗議活動に関する主張の把握は十分ではない。にもかかわらず参加。」、そして③「過去の運動経験やネットワークがなく、抗議活動の目的を明確に把握していない状態で運動に参加する」となります。そしてこの中でも特に、③のような「運動経験もなく抗議活動の趣旨への強い賛同もないまま参加した人々」を惹きつけた抗議活動に内在する選択的誘因について明らかにしていきます。
③の類型に分類されたとあるインタビュイーはこう語ります。
とりあえず(サミットの活動は)一回きりだったんで、彼ら(NGOの人々、外国の人々)と会うのは。これがずっと続くとなると間違いなく行かなかったですけど。とりあえずどんなもんかだけ見るだけでも(NGOの)情報は得られるし、いいと思ったらそのまま(NGOや海外の活動を)やればいいし。(中略)継続的な、ってこと(活動)をすごく、したくないです。やっぱり環境(問題)、債務(問題)に関する情熱はゼロなんで。その(サミットの)時点ではただちょっと見物しに行くっていうの(立場)なんで。短期間だと(その活動が合わないと思ったら)逃げられると思うんですよ。
このインタビュイーはサミット抗議活動に内在する「時限性」を手がかりとして、気軽に参加できるものとして捉えています。別のインタビュイーはこの時限性をむしろ積極的に捉え、一回きりなのだから参加しないともったいない、多様な参加者が来て華やかだろうと感じ、運動に参加するに至っています。他にも、政治的問題意識も運動経験もあるが、既存の運動の「マッチョさ」に抵抗を感じて関与を避けてきた人が、「気軽さ」「一回性」を肯定的に捉えて参加するという事例も紹介されています。
また別のインタビュイーはこう語っています。
それこそ東京では、高円寺じゃなくてもね、渋谷とかでも(路上で面白いことを)やってましたけれども、札幌はもう王道のガチガチの全共闘みたいな(デモしかなかった)。(面白い活動が)全然ないですから。(中略)やっぱり、そこにさ、若いファッションはさ、響かないじゃん。面白くないもん。
サウンドシステムを用いたデモを行ったこのインタビュイーは、「エンジョイレジスタンス」(楽しみながら政治的主張を行う)という日本における既存の社会運動にはあまり見られなかったであろうスタイルを肯定的に捉え、参加するに至っています。
以上のような分類・評価を踏まえ、筆者は、「構造的要因や認知的要因を強調せずに参加した人々はサミット抗議活動を「かっこいい」「苦しくない」ものとして捉えていた。そのかっこよさや苦しくなさは、サミット抗議活動の期間限定性や局所性、参加者の多様性や規模の大きさに起因している。」とサミット抗議活動が持つ特性を総括します。その上で、そのような要素がかれらの参加に結びついた背景として「従来の社会運動に対する激しいマイナスイメージ」、すなわち、「限られた人の」「世間から承認されていない」「非寛容で排他的な」運動への抵抗感があったと指摘し、このような参加者特性とサミット抗議活動が持つ特性とが揃うという条件の下で選択的誘因が生じたと結論づけています。
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